セラピストにむけた情報発信



開口部へのリーチング動作に見られるアフォーダンス知覚
:Ishak et al. 2008 part.2




2012年3月21日

前回紹介したIshak et al. 論文に関する報告の続きです.

私が今回,数年ぶりにこの論文を読み返して改めて認識した重要点は,参加者の判断が必ずしも正確ではないということです.すなわち,実際には装置に接触してしまう狭い隙間に対して,ぶつからずにアメを取れると判断していることがわかりました.これは,手が通り抜けるのに最低限必要なサイズを過小評価していることになります.

実はこうした過小評価は,空間移動行動における隙間通過場面においてはしばしばみられる現象です.特に両手で平行棒を持った場合や,車いすに乗った場合など,身体幅よりも広いスペースが必要な場合には,頻繁に報告される現象です.

今回の論文のように開口部へ手を伸ばす動作の場合,隙間をかなり近い位置で観察することもあり,隙間の大きさの見積もり自体が大きく誤っているということは,やや考えにくい状況です.にもかかわらず,手が通り抜けるのに最低限必要なサイズを過小評価しているという現象は,興味深いように思います.

著者らはこうした結果に対していくつかの可能性を提案しています.たとえば,仮にぶつかったとしてもペナルティがあるわけではないので,参加者は接触を恐れずに狭い隙間に手を伸ばした可能性や,アメをもらうことに夢中になって多少のリスクを恐れなかった可能性などがあげられています.

こうした彼らの主張は,過小評価が決して能力的な欠陥(適切な情報をピックアップすることができないこと)を意味しているのではなく,そのサイズを適切に評価しつつ,あえて接触ギリギリの隙間に手を伸ばしているのではないか,という主張になります.

本年度研究生として一緒に研究をした室井大祐氏と安田真章氏は,それぞれ空間移動行動における隙間通過時の知覚判断の問題にアプローチしてくれました.今回この論文を再読することになったのも,彼らの研究の詳細を決定するに当たっての情報を得るためです.

室井氏と安田氏はいずれも4月より,大学院生として研究を継続してくれます.大学では春休みになっている現在も,2人は休むことなく実験データの収集に励んでいます.今後,彼らの成果に基づいて様々な議論ができることを楽しみにしている次第です.



今週末から,イリノイ州立大学に招待されて講演を行うためにシカゴに出張となります.次回はその様子についてご紹介する予定です. 4月2日以降に更新の予定です.


(メインページへ戻る)